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December 2009
山仕事 第1回【鹿のワナかけ】
- 2009-12-25 (Fri)
- 山仕事
山仕事 第1回【鹿のワナかけ】
今回は、高千穂町の農家、佐藤慎市さん(57歳)に『鹿のワナかけ』について学びました。
鹿のワナかけは、鳥獣害駆除の一環として行なわれているもので、佐藤さんは県から認定を受けた従事者です。
鳥や獣が田畑に入り、農作物を食べ荒らすことや、木々の葉や皮を食べ、枯らしてしまうことなどの害を獣害といいます。昨年度の高千穂町における鳥獣による農作物の被害額が、およそ3530万円です。農家にとっては経営的にも、精神的にも痛手であり、暮らしそのものが脅かされています。
山を覆うほど杉の植林をしたことで、獣たちの食べ物が山に少なくなり、それを求めて里の田畑に荒らすということも原因の一つとしてあげられますが、他にも、山と里を隔てていた、茅場などの緩衝地帯がなくなったことや、過疎化で人けが少なくなったこと、猟師の高齢化や減少などの理由で、容易に里の農作物を食べられるようになったことも被害を大きくしている要因となっています。
防護策としては、田畑の周囲を電気柵や防護ネットで囲む方法がありますが、それにかかる諸経費も高く、増殖し続ける鹿や猪を防ぐ効果的な方法はないようです。
猟師は、猟友会に所属し、猟期が11月15日~3月15日までと決まっていますが、自己防衛をしても防ぎきらないため、鳥獣保護法に基づき、猟期を過ぎても猟ができる有害捕獲班(高千穂町認定)、特別捕獲班(宮崎県認定)などが設置されています。ボランティアに近い形で、鳥獣害の駆除を担っています。
猟は、銃器とワナに分けられます。佐藤さんは、ワナで鹿や猪を捕まえます。ワナは、梃子(てこ)の原理を利用した、とてもシンプルなものです。仕掛けを踏むと、スプリングの留め金がはずれ、ワイヤーが絞られ、獣の足を捕らえます。プラスチック製の水道管、スプリング、ワイヤーを使い自作します。ここが工夫のしどころで、人によって、細工に違いがあるそうです。
【鹿のワナかけ】
① 鹿の通り道を探し、ワナをしかける場所を決めます。
② 深さ20㎝ほどの穴を鉄棒で掘り、土台になるプラスチック製の輪を穴にいれます。
③ 仕掛けのある支柱を土台の外脇に埋め込みます。
④ 土台の輪の側面に開けられてある八つの穴に、爪楊枝をそれぞれ差し込みます。
⑤ 爪楊枝の上に、土台の円周より少し小さめの板を置きます。
(爪楊枝をし二重に板を置くのは、狸やウサギなど、小さな動物がかかっても、ワナが反応しないための工夫です)
⑥ 土を被せます、木の葉で覆って、自然に近い状態をつくります。
⑦ 捕らえた鹿が暴れても逃げれないように、ワイヤーを近くの木に括りつけます。
⑧ 人工的なものはないか最終チェックをし、周りも木の葉などで覆ったらワナの設置完了です。
【余談】
撒き餌として、籾、ふすま、米ぬかなどを使うこともあります。
慎一さんは、常時、24ヶ所、ワナを仕掛けることが許可されています。仕掛けても効果がないところは、そのつど撤収していき、また、別の場所に仕掛けます。見回りは、朝が多いそうです。農作業の傍らの仕事です。
鹿の通り道も把握しています。
鹿に食べられた柚子の葉と、傷つけられた桜の木。鹿は食欲旺盛で、ほうおっておくと、苦手な毒性の強い植物以外は、全て食べてしまいます。植樹しても大きくなる前に、食べられてしまうことが多々あります。
仕掛けは同じですが、猪も狙います。
猪が泥あびをする『ぬた場』です。
猪の背丈の泥が竹についています。
狸のフン。狸は、同じ場所でフンをする習性があるそうです。
二十年ほど前まで、ここは棚田でした。
昨年、捕らえた鹿。血が全身に回らないうちに捌いて食します。
山深い土呂久集落。
『50代が若手』と言われるほど、猟師の高齢化が進んでいます。猟師なくしては、山村の暮らしはままなりません。農家が猟師を兼務しているのがほとんどですが、鹿を見て「可愛い」だけではすまされない現実が山村にはあります。鹿のワナかけは、とても大切な山仕事なのです。
(レポート 藤木哲朗)
今回は、高千穂町の農家、佐藤慎市さん(57歳)に『鹿のワナかけ』について学びました。
鹿のワナかけは、鳥獣害駆除の一環として行なわれているもので、佐藤さんは県から認定を受けた従事者です。
鳥や獣が田畑に入り、農作物を食べ荒らすことや、木々の葉や皮を食べ、枯らしてしまうことなどの害を獣害といいます。昨年度の高千穂町における鳥獣による農作物の被害額が、およそ3530万円です。農家にとっては経営的にも、精神的にも痛手であり、暮らしそのものが脅かされています。
山を覆うほど杉の植林をしたことで、獣たちの食べ物が山に少なくなり、それを求めて里の田畑に荒らすということも原因の一つとしてあげられますが、他にも、山と里を隔てていた、茅場などの緩衝地帯がなくなったことや、過疎化で人けが少なくなったこと、猟師の高齢化や減少などの理由で、容易に里の農作物を食べられるようになったことも被害を大きくしている要因となっています。
防護策としては、田畑の周囲を電気柵や防護ネットで囲む方法がありますが、それにかかる諸経費も高く、増殖し続ける鹿や猪を防ぐ効果的な方法はないようです。
猟師は、猟友会に所属し、猟期が11月15日~3月15日までと決まっていますが、自己防衛をしても防ぎきらないため、鳥獣保護法に基づき、猟期を過ぎても猟ができる有害捕獲班(高千穂町認定)、特別捕獲班(宮崎県認定)などが設置されています。ボランティアに近い形で、鳥獣害の駆除を担っています。
猟は、銃器とワナに分けられます。佐藤さんは、ワナで鹿や猪を捕まえます。ワナは、梃子(てこ)の原理を利用した、とてもシンプルなものです。仕掛けを踏むと、スプリングの留め金がはずれ、ワイヤーが絞られ、獣の足を捕らえます。プラスチック製の水道管、スプリング、ワイヤーを使い自作します。ここが工夫のしどころで、人によって、細工に違いがあるそうです。
【鹿のワナかけ】
① 鹿の通り道を探し、ワナをしかける場所を決めます。
② 深さ20㎝ほどの穴を鉄棒で掘り、土台になるプラスチック製の輪を穴にいれます。
③ 仕掛けのある支柱を土台の外脇に埋め込みます。
④ 土台の輪の側面に開けられてある八つの穴に、爪楊枝をそれぞれ差し込みます。
⑤ 爪楊枝の上に、土台の円周より少し小さめの板を置きます。
(爪楊枝をし二重に板を置くのは、狸やウサギなど、小さな動物がかかっても、ワナが反応しないための工夫です)
⑥ 土を被せます、木の葉で覆って、自然に近い状態をつくります。
⑦ 捕らえた鹿が暴れても逃げれないように、ワイヤーを近くの木に括りつけます。
⑧ 人工的なものはないか最終チェックをし、周りも木の葉などで覆ったらワナの設置完了です。
【余談】
撒き餌として、籾、ふすま、米ぬかなどを使うこともあります。
慎一さんは、常時、24ヶ所、ワナを仕掛けることが許可されています。仕掛けても効果がないところは、そのつど撤収していき、また、別の場所に仕掛けます。見回りは、朝が多いそうです。農作業の傍らの仕事です。
鹿の通り道も把握しています。
鹿に食べられた柚子の葉と、傷つけられた桜の木。鹿は食欲旺盛で、ほうおっておくと、苦手な毒性の強い植物以外は、全て食べてしまいます。植樹しても大きくなる前に、食べられてしまうことが多々あります。
仕掛けは同じですが、猪も狙います。
猪が泥あびをする『ぬた場』です。
猪の背丈の泥が竹についています。
狸のフン。狸は、同じ場所でフンをする習性があるそうです。
二十年ほど前まで、ここは棚田でした。
昨年、捕らえた鹿。血が全身に回らないうちに捌いて食します。
山深い土呂久集落。
『50代が若手』と言われるほど、猟師の高齢化が進んでいます。猟師なくしては、山村の暮らしはままなりません。農家が猟師を兼務しているのがほとんどですが、鹿を見て「可愛い」だけではすまされない現実が山村にはあります。鹿のワナかけは、とても大切な山仕事なのです。
(レポート 藤木哲朗)
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