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山と木の仕事

山仕事 第3回【椎茸のこま打ち作業】

山仕事 第3回【椎茸のこま打ち作業】

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 今回は、高千穂町の農家、興梠尊教さん(73歳)、アイさん(69歳)ご夫婦に、『椎茸のこま打ち』について学びました。コマとは、椎茸菌の繁殖した種駒のことです。玉切りした原木にドリルで穴を開けたものに、こまを金槌を使って埋め込んでいく植菌作業のことをこま打ちといいます。植菌されたものを「ほだ木」と、よびます。

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椎茸の栽培作業を順に追ってみると、下記のようになります。

根ざらえ(下刈り) 椎茸の原木となる林の下草、小さな雑木を刈る。
原木の伐採  十月下旬から、十一月下旬の霜が二、三回降った後の快晴の日に切り倒す。     
葉枯らし 倒した木は三ヶ月程そのままにして、水分を抜く。
原木の玉切り 二月、ほだ木の長さに切り、集めておく。(興梠家のほだ木は、1m20cm)
こま打ち 椎茸菌の植菌
仮伏せ  二ヶ月ほど、ほだ木を山の木陰が多い場所に重ね、椎茸菌の繁殖を進める。
本伏せ ほだ木を組み、そのまま椎茸菌の繁殖を進める。
収穫 本伏せから、二夏越した秋(九月末から十月半ば)に、収穫が始まる。

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伐採したあとクヌギ林。今年はこの面積分のこま打ちをします。

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原木。切り口がみずみずしいとよくない。白く乾燥したものが良い。


【椎茸のこま打ち作業】

① 原木を持ってきます。

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② 原木に椎茸ドリルで、穴を開けます。

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椎茸ドリル。刃がドリル状になっています。

③ こまを金槌で打ち込みます。

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④ ほだ木(椎茸菌が打ち込まれた原木)を並べます。

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 ほだ木の大きさもよりますが、一本のほだ木に対して、縦に2~6列、横に5~6列、およそ15~35個のこまが、埋め込まれます。


【種駒について】

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今回のこまは、森産業株式会社(群馬県)の『にく丸 森290号』と、『ゆう次郎』です。

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『にく丸 森290号』全国的に最も多く使われている品種だそうです。

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椎茸ドリルで開けた穴にセットします。

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金槌で打ち込みます。

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簡単に埋まります。

 「じいちゃんが生きていた頃は、孫に一個一円とか言って、手伝いをさせよったですよ。子供でも簡単にできるんですよ」とは、アイさん。僕も体験させていただきましたが、金槌で、二、三回打ちこむだけで、簡単にできます。「馬」と呼ぶ、杉を三角形に組んだものを台座にします。この台座があるおかげで、腰を曲げずにすみ、作業も楽にはかどります。

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真っ直ぐなほだ木ばかりじゃ、ありません。台座は「馬」とよばれる杉材を三角形に組んだものです。なんとこの「馬」六十年間も使っているそうです。

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たまには、腰を伸ばして一休み。

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三時過ぎには、小昼(こびる)の時間です。

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今日の小昼は、酒饅頭と、かぼちゃ団子。餡が栗餡です。酒饅頭の酒がよくきいていて、とても美味しくてパワーがでます。

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銀子ちゃんも、おねだりです。

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もっと食べたい銀子ちゃん。

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馬に持ち上げられないような木は、地べたでします。ほだ木としては、扱いにくいのですが、木が大きい分、養分もたくさんあり、椎茸がよくなります。

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ただ、ひたすら作業を続けます。

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 僕も2時過ぎから手伝いました。19時まで三人で作業を続け、およそ二千個のこまを打ちました。作業は、単純で難しくなかったです。ただ、案の定、手の平に肉刺(まめ)ができました。毎年、お二人で一万個のこま打ちをするということですので、大変なことです。昔は、近所の人に手伝いに来てもらって、四万個のこま打ちをしていました。
 
 種駒を使った栽培が確立されるまでは、鉈やよぎ(まさかり)を使って切り倒した木に鉈で傷をつけ自然界にある椎茸菌を繁殖させる、なため栽培が主流だったそうです。昭和20年代後半まで続きました。

 昭和50年代前半までは、一キログラム、五千円の高値で売れていたそうですが、安価な中国産が入ってくるようになると、消費者がそちらのほうに流れ、価格が暴落。中国産は、歯ごたえとうま味が少なかったため、消費者の椎茸離れが進みました。現在は一キログラム、二、三千円だそうです。

 今日の作業でできたほだ木は、近いうちに山にもって行き仮伏せされ、その後本伏せされ、二夏越した、来年の秋頃から収穫がはじまります。椎茸づくりは、作業自体は単純ですが、とても根気の要る仕事です。

関連

山仕事 第2回【椎茸の収穫作業】
http://www.kiroku-miyazaki.jp/contents/index.php?itemid=31

(レポート 藤木哲朗)
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山仕事 第2回【椎茸の収穫作業】

山仕事 第2回【椎茸の収穫作業】

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 今回は、高千穂町の農家、興梠アイさん(69歳)に『椎茸の収穫』について学びました。
 宮崎県は椎茸の産地としてよく知られています。西臼杵郡内の山道を歩くと、杉木立の中に『ほだ場』(椎茸を栽培している場所)を、よく見かけます。

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 椎茸は、常緑樹が茂った山が適地で、その理由は、適度な光が入ることにあります。日光と影が、3:7の割合が良いそうです。落葉樹の場合、葉が散り直射日光の当たる割合が増えると、菌が死んでしまいますし、ぼた場が落ち葉に埋もれてしまいます。
 アイさんちのぼた場は、常緑樹の中でも良いとされる「樫の木」が茂った山の南斜面にありますので、しいたけ栽培にとても適しています。しかも、標高が630mあり、寒暖の差が大きいために、椎茸もゆっくり育ちます。だから、実の厚みがあり、コリコリととても食感が良いです。

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 アイさん「椎茸の味は、どれもそんなに変わらんもんだと思っちょったけど、プレゼントした友達が、うちのは味が違うと言うとたい。光がパラパラと、当たるとがいいとでしょうね。温度が下がりすぎると、育たんなることもあるけど、それを辛抱して太るから味がいいとでしょうね。」
 ちなみに、興梠家では、春にコマ打ちし、二夏越した10月中旬から、4月末までが収穫期となります。雨が降った次の日には、どっさりと生え、冬の寒い日には成長が遅くなります。生椎茸よりも、乾燥椎茸として販売や、プレゼントすることが多いそうです。

【椎茸の収穫作業】

① ほどよく傘を広げた椎茸を根元から、丁寧に収穫する。

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② 足もとに気をつけて、ひたすら収穫する。

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興梠家では、『ほだ木』に、クヌギを使います。樫や栗、椎を使うところもあります。

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常緑樹に日光が当たり、きらきらととてもきれいです。

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斜度があるので収穫は大変ですが、日光、雨、風が程よく流れ、美味しい椎茸を育てます。

③ カゴが一杯になったので、収穫作業終了。

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五年が過ぎ、役目を終えた『ほだ木』は、そのまま放置されますが、菌が生きていればまた、生えてきます。採りだすと切りがありません。

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山道も、自分たちでつくりました。

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④ 収穫したものは、ザルに広げ天日で半日ほど干します。

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干さずに、そのまま料理に使うこともあります

余談

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ひらたけは、榎(えのき)のほだ木に生えます。

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アイさんの亡くなったお父さんお手製の杖。山道を歩くのに便利です。

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椎茸の乾燥小屋。乾燥椎茸も美味しくて、評判です。

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興梠家の裏山がほだ場です。

 椎茸の収穫作業は、さほど難しくありませんが、ここに至るまでの作業は簡単ではありません。ほだ木となるクヌギの栽培に15年ほど。原木を伐採し、玉切りし、植菌。伏せ込み、組む。そして、ようやく椎茸の収穫となります。相当な労力と時間が必要です。このサイクルを守って持続可能な椎茸栽培ができます。そして、私たちの食卓へ美味しい椎茸がならびます。

参考
宮崎県しいたけ振興会
http://www.miyazaki-cha.jp/shiitake/
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山仕事 第1回【鹿のワナかけ】

山仕事 第1回【鹿のワナかけ】

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 今回は、高千穂町の農家、佐藤慎市さん(57歳)に『鹿のワナかけ』について学びました。
 鹿のワナかけは、鳥獣害駆除の一環として行なわれているもので、佐藤さんは県から認定を受けた従事者です。
 鳥や獣が田畑に入り、農作物を食べ荒らすことや、木々の葉や皮を食べ、枯らしてしまうことなどの害を獣害といいます。昨年度の高千穂町における鳥獣による農作物の被害額が、およそ3530万円です。農家にとっては経営的にも、精神的にも痛手であり、暮らしそのものが脅かされています。

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 山を覆うほど杉の植林をしたことで、獣たちの食べ物が山に少なくなり、それを求めて里の田畑に荒らすということも原因の一つとしてあげられますが、他にも、山と里を隔てていた、茅場などの緩衝地帯がなくなったことや、過疎化で人けが少なくなったこと、猟師の高齢化や減少などの理由で、容易に里の農作物を食べられるようになったことも被害を大きくしている要因となっています。 
 防護策としては、田畑の周囲を電気柵や防護ネットで囲む方法がありますが、それにかかる諸経費も高く、増殖し続ける鹿や猪を防ぐ効果的な方法はないようです。
 猟師は、猟友会に所属し、猟期が11月15日~3月15日までと決まっていますが、自己防衛をしても防ぎきらないため、鳥獣保護法に基づき、猟期を過ぎても猟ができる有害捕獲班(高千穂町認定)、特別捕獲班(宮崎県認定)などが設置されています。ボランティアに近い形で、鳥獣害の駆除を担っています。

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 猟は、銃器とワナに分けられます。佐藤さんは、ワナで鹿や猪を捕まえます。ワナは、梃子(てこ)の原理を利用した、とてもシンプルなものです。仕掛けを踏むと、スプリングの留め金がはずれ、ワイヤーが絞られ、獣の足を捕らえます。プラスチック製の水道管、スプリング、ワイヤーを使い自作します。ここが工夫のしどころで、人によって、細工に違いがあるそうです。

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【鹿のワナかけ】

① 鹿の通り道を探し、ワナをしかける場所を決めます。

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② 深さ20㎝ほどの穴を鉄棒で掘り、土台になるプラスチック製の輪を穴にいれます。

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③ 仕掛けのある支柱を土台の外脇に埋め込みます。
 
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④ 土台の輪の側面に開けられてある八つの穴に、爪楊枝をそれぞれ差し込みます。
 
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⑤ 爪楊枝の上に、土台の円周より少し小さめの板を置きます。
  (爪楊枝をし二重に板を置くのは、狸やウサギなど、小さな動物がかかっても、ワナが反応しないための工夫です)
 
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⑥ 土を被せます、木の葉で覆って、自然に近い状態をつくります。

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⑦ 捕らえた鹿が暴れても逃げれないように、ワイヤーを近くの木に括りつけます。
 
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⑧ 人工的なものはないか最終チェックをし、周りも木の葉などで覆ったらワナの設置完了です。
 
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【余談】

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撒き餌として、籾、ふすま、米ぬかなどを使うこともあります。

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慎一さんは、常時、24ヶ所、ワナを仕掛けることが許可されています。仕掛けても効果がないところは、そのつど撤収していき、また、別の場所に仕掛けます。見回りは、朝が多いそうです。農作業の傍らの仕事です。

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鹿の通り道も把握しています。

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鹿に食べられた柚子の葉と、傷つけられた桜の木。鹿は食欲旺盛で、ほうおっておくと、苦手な毒性の強い植物以外は、全て食べてしまいます。植樹しても大きくなる前に、食べられてしまうことが多々あります。

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仕掛けは同じですが、猪も狙います。

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猪が泥あびをする『ぬた場』です。

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猪の背丈の泥が竹についています。

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狸のフン。狸は、同じ場所でフンをする習性があるそうです。

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二十年ほど前まで、ここは棚田でした。

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昨年、捕らえた鹿。血が全身に回らないうちに捌いて食します。

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山深い土呂久集落。

『50代が若手』と言われるほど、猟師の高齢化が進んでいます。猟師なくしては、山村の暮らしはままなりません。農家が猟師を兼務しているのがほとんどですが、鹿を見て「可愛い」だけではすまされない現実が山村にはあります。鹿のワナかけは、とても大切な山仕事なのです。

(レポート 藤木哲朗)
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